第7章 境界
夜が明けた。太陽の光が差し込んで、聞き慣れた声が耳をくすぐる。
「姫様、おはようございます。ご気分はいかがですか?」
「クライヴ……?」
部屋にいたのは、クライヴだけだった。あの後、セバスチャンはすぐに会釈して立ち去ったのを僅かに覚えている。苦い、夜ね。
「どうかなさいましたか? ぼうっとしていらっしゃいますよ」
「なんでもないわ。それより、今日は……わかっているわね?」
「勿論で御座います。あの執事も着いていくとい仰っていますが、宜しいのですか?」
「ええ……伯爵を助けるのは、彼の仕事だもの。私は、陛下の任務を完了しなくては」
クライヴが用意した紅茶に口をつけ、渡された資料に目を通す。再び調べ直したラビットファミリーについての、動向が記されている。
「今回ご招待された豪華客船、ホワイトマーメイドは本日初の出航を遂げる船だそうで、その祝杯も兼ねて大きな貴族達によるパーティーが催されるようです」
「なるほど、ヴァインツ家が出席していてもおかしくないパーティーというわけね。そこまで綿密に計算されているわけでもないでしょうけど。伯爵は無事かしらね」
「彼の事ですから、平気でしょう。あのセバスチャンさんが呑気に我が屋敷に身を置いている限りは」
「ふっ、それもそうね」
いざという時は、飛んでいくでしょうからね。