第5章 予感
「申し訳ございません。坊ちゃんの命で、貴方を守るよう言われております。ですので、坊ちゃんの身の安全の優先度が下がっておりましたので」
「セバスチャン、貴方は伯爵の救出に……」
「その必要はありません。坊ちゃんが助けろというまで、私はここでアリス様だけをお守りいたします」
「何を……っ」
「しっ。声が大きいです」
二人が見守る中、リンスとカレンはスカートを少したくし上げ太腿のホルダーに収められていたダガーナイフを手にした。
「女がそんな危険な物、やめた方がいいぜっ!?」
男が銃口を彼女達に向けた途端、リンスがいち早く地を蹴った。しっかりとナイフを構えると、姿勢を低くし素早く相手の懐へ飛びこんだ。
「なに……っ!? っ……!!」
「接近戦では、銃は不利ですね」
振り上げた彼女のナイフが、男の首元を襲う。血の雨を全身に浴びたかと思えば、男はゆらりと倒れ込んだ。
「てめぇっ!!」
「危ないっ、リンス!」
もう一人男が姿を現し、リンスへと拳銃を突きつける。カレンはナイフを相手の頭に照準を合わせ、迷わず投げた。
「え……?」
男の拍子抜けた声も虚しく、脳天に見事命中したカレンのナイフにより、先程の男同様に崩れ落ちた。立っているのは、リンスとカレンの二人だけだった。