第21章 約束
薄暗い路地裏を抜け、人混みを掻き分け三人が進むのは暗い街の中に潜む影。少しずつ情報をかき集めながら、辺りにも警戒しつつ先を急ぐ。
暫くして、裏路地の更に深い影が潜むスラム街へと足を踏み入れるのだった。
「こんな場所、まだ英国にもあったのね」
「そうですね……私も坊ちゃんとこのような場所を訪れたことは未だありません。本当に、隠れながら住んでいるのでしょう」
「女王が知ったら……どうするのかしらね」
「さあ? 我々には見当もつきませんね」
ふと、一人の老婆がじっとアリスを見つめる。その視線にいち早く気付いたセバスチャンは足を止めた。
「セバスチャン?」
「……そこの貴方にお伺いしたいことがあるのですが」
老婆は視線を上げ、セバスチャンを見る。彼の瞳が血のように赤いことを知り、何故か嬉しそうに笑んだ。それが何を意味しているのか。
「天使によく似た……瞳だね」
「なんですって?」
アリスが反応を見せたことで、老婆の視線は彼女へと移る。何処か恍惚そうに見つめる異様な光景に少なからずアリスは眉を潜めた。
「ここいらでは、エンジェルドラッグなるものが萬栄し、その誰もが天使になりたくて服用する。天使になれた者は、赤い瞳を持つと噂されていてね……その中でも今、エンジェルドラッグを扱ってるとあるマフィア達は、本物の天使を探しているらしいよ」
「本物の天使って、どういう意味よ!?」
「そのままの意味さ。噂で一人、天使になれた人間がいるって話さ! 一度でいいから会って……羽根をむしり取ってみたいものだねっ!!!」
けけっと笑い始める老婆を尻目に、セバスチャンはアリスの手を掴んでその場を早急に離れた。背後ではまだ、あの笑い声が響き渡っている。
セバスチャンの背は広く高く。アリスは彼の背を見つめて、すぐに目を伏せた。