第2章 帳
「叶うなら、今すぐ貴女を貪り尽したい。まさかこのような形で、再会するとは思いもしませんでした。貴女も……坊ちゃんと同じ、悪の貴族だったとは」
「暫く会わないうちにぼけたかしら? 知って私に仕えていた癖に」
「今は坊ちゃんの忠実なる下僕ですので。忘れてしまいました……そんな過去のこと」
「その過去に、今更何か御用? わざわざ約束の時間を破ってまで」
「ええ……そういえば、これを貴女に返し忘れていたと思いまして」
懐から木箱を取り出し、器用に中身を抜き取る。アリスの親指にはめて、彼は満足げにそれを撫でる。彼女は小さく「それは……」と声を漏らした。
「そう。貴女の家に伝わる、指輪。すみません、契約を解消する際人質代わりに持ち出してしまいまして」
「どういうつもりかと思ったわよ。宝石泥棒が趣味なのかと」
「そんなわけないでしょう……。これはただの口実」
アリスの洋服に、セバスチャンは手をかけた。
「こんな洋服、貴女には似合いませんね」
「やめて、触らないで頂戴」
「……アリス様?」
「クライヴが選んだ洋服よ、侮辱しないで」
「……。やはり、妬けてしまいますね」
セバスチャンは手を離して、彼女の上から退いた。アリスがじろりと彼を睨むと、胡散臭い笑みを浮かべた彼がそっと手を差し伸べた。
「お手をどうぞ」
「……ふんっ」
アリスが手を取ると、ゆっくり彼女の身体は起き上る。セバスチャンは執事らしく、彼女の洋服の乱れと髪の乱れを整えた。その光景が、まるで昔のことの様に思えたアリスは彼から目を逸らした。