第20章 牢獄
「ラビットファミリー? 聞いたことないな……ああ、でもその天使になれる薬のことなら少し知っているぞ」
「本当ですか?」
十分なお金を男に握らせると、男は饒舌気味に情報を話し始めた。
「なんでも、そのドラッグは天使になる為の試練だそうだ。そいつに打ち勝った者だけが天使になれるんだ! 天使になれば、何もかもが上手くいく、手に入る!! どんな辛い過去を忘れることも、可能らしいぜ」
「どんな辛い過去も……ね」
セバスチャンの脳裏には、未だ苦しみに歪むアリスの悲痛の表情が思い浮かぶ。人間が天使に等なれるはずがない。それは、悪魔である彼だからこそ断言できる思いなのかもしれない。男は全ての情報を話し終えると、最後に一言付け足した。
「そういえば、エンジェルドラッグを売っていた奴らの中に天使を探していると言っていた奴もいたらしいぜ」
「天使を探している?」
「ふっ、天使になれた奴でもいるのかね。天使を手に入れることが出来れば、神になれるなんて言ってやがったぞ」
「なるほど……それが、彼らの目的」
セバスチャンはすぐにその場を離れ、雑踏の中へと溶け込んでいく。
「早く、アリス様を見つける必要がありそうですね」
懐にあった懐中時計で時間を確認すると、集めた情報をまとめたメモ帳を片手に、早歩きで人だかりを掻き分け歩く。
何も変わらない日常の風景。そのはずなのに、何かが違う気がしてならない。それは心の変化によるものか、それともまた違う何かなのか。
――アリス……会い、たい。
ふと、セバスチャンは足を止めた。