第20章 牢獄
「姫様……」
「ねぇ、クライヴ。人生とはよく出来ているものよね、そうは思わない? 付きまとう影は、罪とも罰とも違う……なのに、私はその闇からいつまでも逃げることが出来ない。この身体も、異端な力も……全てを壊したくて堪らないのに」
「苦しいのですね」
そっと、クライヴは彼女の肩を抱いた。
「このような行為、執事にあるまじき行為。けれど、今はお許しください……私はただ一人、姫様。貴女様の憂いを晴らす為だけに存在しているのですから」
「……怖くなんてないのよ、ただ……終わっていなかったということが、少し……ほんの少し、嬉しいだけ」
赤い瞳を覗かせて、その奥には確かな狂気を携えて。窓から差し込んでいた太陽の光は、知らぬ間に途切れ大きな雲が空を覆う。風が吹く、まるで嵐の前兆のように激しく。
がたがたと揺れる窓の音を聞きながら、アリスは瞼を閉じた。
「ラビットファミリー。今度こそ、私の手で……全てを終わらせてみせる」
「それが、貴女の望みならば。何処まででも」
過去は当人の心の動きなどまったく関係のない無機質な物体。心がない為に、淡々と揺らめく意思のない人形のよう。背中を掴まれたなら、きっと……ただ堕ちるだけだろう。
天使が地に堕ちるごとく。
街中で既に聞き込みを開始していたセバスチャンは、度々周囲を見回す。遠くの方で、自らと同じ闇を持つ者の気配を感じながら。