第17章 幻想
「アリス様! セバスチャンさんっ!!」
「アグニさん」
アグニが二人を呼びに来た。つまり、準備が整ったということ。
「こんなところにいたのですね、探しました」
「申し訳御座いません。ファントムハイヴ家の執事ともあろう者が、一人のお客様へのエスコートに少々夢中になっておりました」
「すぐ会場へ戻ってきて下さい。私は先に戻っています」
「アグニさん、わざわざありがとうございました」
セバスチャンがそう返事をすると、アグニは一瞬アリスにウィンクをした。どうやら、作戦は成功のようだ。
「さあ、行きますか。アリス様」
手が差し伸べられる。
思い出の中に居座る彼と、今の彼が重なった気がした。
「……アリス、様……っ?」
「行かないで」
差し伸べられた手を取らなかった。
代わりに彼女は、彼を抱きしめた。