第17章 幻想
「嫉妬で頭がおかしくなりそうだというのに……どう、大事に出来るのです?」
容赦なく、彼の冷たい唇がアリスの唇を奪う。
深く、呼吸を奪うように。何度も、何度も。
次第に酸素を失い始めた頃、ようやく離れた。
「……はぁっ! はぁっ……はぁ」
「……貴女と再会した私が、どんな想いを抱いたと思いますか? ふっ……想像も出来ないでしょう? そうです、貴女にそんなことが出来るわけがないんです。当然でしょう? 貴女は出会った時からずっと、私のことなど見ていないのですから」
「そんな戯言を言う為に、時間が欲しいといったわけ? だとしたら、本当に最低悪魔だわ。悪趣味なのよ」
「貴女をあの男から引き剥がす為なら、私はどんな穢れた血を頭から被ろうとも構いません。それほどにまで、貴女をもう一度所有したい私がいるのですから」
「そんな嘘、真に受けると思う?」
歪んだ彼の微笑みが、とても月と似合っていた。
「陳腐な言葉では、もう届かないでしょう」
諦めにも似た、言葉。彼らしくない、と思ったのはこれが最初だったのかもしれない。アリスはそう思うのだった。
止まった時間は、動き出したのか加速を始める。セバスチャンは彼女を起こしては、その手をぎゅっと握る。
「トリックオアトリート」
「は……?」
「これは、私が貴女に差し上げる悪戯ですから」
アリスの目が点になる。
先程の彼はどこへやら。「いやぁ、楽しかった」といつも通りの意地悪い顔を見せ、笑った。なんだ……と何処か安心した様子のアリスは時間を確認する。気付けば、随分と経っていたようだ。