第15章 覚悟
「クライヴ、さん?」
「お待ちしておりました。おかえりなさいませ、アリスお嬢様。いえ、我が姫」
彼は私の手を掴むと、手の甲に口付けた。
「ちょっ、ちょっと!?」
「言ったでしょう? 僕は、貴女と契約すると。僕は今日から、貴女の忠実なる下僕」
気付けば、彼は燕尾服を着ていた。つまり……そういうことなのだろう。
まったく身体に痛みがないことなど横に置いて、思い切り起き上って彼をしっかりと見つめた。
「姫様、僕に命じて下さい」
ここから始まる気がした。
「クライヴ・バロン。貴方は……今日から私の」
濃厚な血の契約も、鮮明な死の願いを口にするのならお似合いなのかもしれない。
「執事になりなさい」
「イエス・マイロード」
自然と、笑みを浮かべた。クライヴも私に笑みを向けた。笑って口にするようなことではないのかもしれないけど。それでも……私は生き延びた。
普通であることを捨てて、それでも生きることを選んだ。
「姫様、使用人を雇いませんか?」
「いいけど……守らなくていい使用人がいいかな」
「それは何故ですか?」
彼の手を初めて取った、きょとんとした顔を私はたぶんこれから一生忘れない。
「誰も一人にしたくないからよ」
誰かを守れる自分には、まだなれそうもないから。せめて守らなくちゃいけない人じゃない方がいい。もし私を一人にしたとしても、それでもいい。それまでには絶対、守れる自分になってみせるから。
「……かしこまりました」
「それと、執事なら言葉使いには気をつけなさい。僕はなし」
「イエス・マイロード」
とりあえず、この場所からやり直そう。アリス・ヴァインツを。
「姫様、ファントムハイヴ家からハロウィンの招待状が届きましたよ」
「ハロウィンね……面白そうじゃない」
あの日から更に時は流れた。さて、"セバスチャン"。貴方の瞳には今、どんな私がいるのかしら?
……――教えてくれる?