第21章 落とし物
・
・
・
『私が残る』
「は?」
ゴミを見るような真っ暗な目が、私に向けられた。
弟妹達は銃に囲まれ、恐怖に押し潰されそうになりながら泣き声を堪えて震えていた。
『私が残るからみんなを解放して』
「逃しちまったら身代金が手に入んねぇだろうが」
『人質がいればいいんでしょ』
「俺らの目当てはそこの院長先生なんでね。親もいねぇガキが1人残ったところでこっちに得は1つもねぇ」
そう。悔しいけど男の言う通りなんだ。
何の後ろ盾もない。
私には、親がいない。
だから
『なんでもする。抵抗はしない』
私の家族だけは絶対に誰にも壊させない。
私たちの家族はここにしかいない。
「ふーん?」
ジロジロと舐めるような視線が私の体を這いずる。
「おい」
男が顎で手下に合図を出すと、他の男達は乱暴な力で弟妹の腕を引っ張った。
弟妹達は叫び、力の限り抵抗していた。
それでも男の力には敵わない。
教会の外へと連れて行かれる。
みんなはこれで解放される。
先生のことは時間を稼いで…
『…っ』
鈍い光が首元を照らした。
セーラー服の襟元にナイフが当てられ、
ぶちん という音がして胸元がはだけた。
『…』
口の中が鉄くさい。
噛んだ下唇がじわじわと熱を帯びていた。
もう男のことなんてどうでもよかった。
自分もどうなってもいいと思っていた。
教会の扉を見つめ、先生を逃すことだけを…
「さくら…!!」
「おい!勝手に動くな…!」
ダダダダダダ…!
聴き慣れた声とけたたましい銃声が私の耳を揺らした。
辺りを見渡すと絶望に囚われた弟達の視線の先に、
床に倒れる先生の姿があった。
『…え』
そこから先はあまり覚えていない。
慌てた様子の男達が喚き散らしながら去っていく背中が見えた。
子ども達の叫び声と嗚咽が遠くで聞こえた。
雷光に照らされた先生の体の下には
赤い水溜りが底無し沼のようにどこまでも広がっていった。
私はそれを、ただ見ていた。