第16章 雄英文化祭編
彼女が本当に嫌がっていないか、確かめる必要があることも分かっている。嫌だと言われれば、その意思を無視するつもりはない。
だが、嫌がられていないのなら。
少しくらい、期待したっていいだろう。
あの腕の中で、彼女は逃げなかった。
それだけで、今の自分には十分すぎるほどの収穫だった。
「……なあ」
「何?」
「また抱きしめてもいいか?」
今度は、彼女が完全に足を止めた。
「……あなた、本当にそういうところよ」
「何だよ」
「普通、そこで聞く?」
「嫌なら嫌って言え」
まっすぐに見つめると、彼女は困ったように眉を下げた。
その表情を見て、少しだけ胸がざわつく。
断られるかもしれない。
そう思った自分が、ひどく滑稽だった。
いつだって自信だけはあった。自分の実力にも、判断にも、努力にも。欲しいものがあるなら、手に入れるために何をすればいいかを考えてきた。
だが、この女の気持ちだけは、どれほど考えても答えが出ない。
「……考えておくわ」
返ってきたのは、そんな曖昧な言葉だった。
「はっ。何だそりゃ」
「あなたに簡単に答えをあげるのは、少し悔しいもの」
そう言って、彼女は涼しい顔で歩き出した。
その横顔を見つめながら、爆豪は小さく笑った。
なるほど。
そう簡単にはいかねぇらしい。
上等だ。
むしろ、その方が燃える。
「覚悟しとけよ」
「何の覚悟?」
「俺がしつこいってことを、嫌ってほど思い知る覚悟だ」
「……本当に、面倒な男に目をつけられたわね」
「今さら気づいたのかよ」
彼女は呆れたように肩をすくめた。
けれど、その口元には、ほんのわずかな笑みが浮かんでいた。
それを見た瞬間、爆豪は確信した。
絶対に、諦めてやるものか。
彼女が自分の隣を歩くことを当たり前だと思える日まで。
彼女が秘密を抱えたままでも、弱いところを見せてもいいと思える日まで。
そして、いつか彼女自身の口から、自分を選んだと言わせる日まで。
どれだけ時間がかかろうと、真正面から食らいついてやる。
――母親譲りのしつこさを、存分に発揮してな。