第16章 雄英文化祭編
おもちが何かを話しかけるたび、嬉しそうに頷いていた。
まるで、ずっとこうしていたかったと言うように。
その小さな後ろ姿を見送りながら、緑谷は胸の奥が温かくなるのを感じていた。
エリが、自分から誰かを求めている。
そして、その相手が、あの日、彼女を救うために動いていた人なのだ。
通形は、まだ少し不思議そうに首を傾げていたものの、やがて穏やかな笑顔を浮かべた。
「……そっか。エリちゃんにとって、特別な人なんだね」
緑谷は一瞬、言葉に詰まった。
それから、静かに頷いた。
「……はい。本当に、特別な人なんです」
その声には、確かな実感がこもっていた。
そして、廊下の向こう。
おもちは、エリの歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いていた。
「……おねえちゃん」
「ん?」
「……手、つないでていい?」
おもちは、目を細めて微笑んだ。
「もちろん」
そう答え、繋いだ手を少しだけ握り返す。
「今日は、エリちゃんの行きたいところへ行こうね」
エリは、嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、おもちもまた、心から微笑んだ。
任務でもなく、潜入でもなく、誰かを欺くためでもない。
ただ、大切な少女と過ごす時間。
今の彼女にとって、それは何よりも温かく、かけがえのないものだった。