第15章 死穢八齋會
緑谷は壊理の様子を見て、すぐに異変を察したようだった。少女の身体を守るように腕を回し、彼女を背後へ庇っている。
その姿に、彼女はほんの少しだけ安堵した。
そして同時に、変装をしていることに救われた。
今の自分は、金髪のボブに濃い化粧を施した、別人の女だ。
緑谷が目の前にいるのに、彼女の正体には気づいていない。
それだけが、今の彼女に残された救いだった。
「壊理」
知崎が、ゆっくりと声をかける。
「何をしているんだ。ヒーローに迷惑をかけるんじゃないよ。お父さんを困らせないでくれ」
見え透いた嘘だった。
少なくとも、少女が彼を恐れていることだけは、誰の目にも明らかだった。
知崎は穏やかな表情を崩さず、優しく諭すように続ける。
「子どものわがままで家を飛び出してしまってね。いつもこうなんだ。ご迷惑をおかけして申し訳ない」
緑谷は答えなかった。
壊理を抱き寄せたまま、知崎を警戒するように見つめている。
「壊理。もういいから、こっちへおいで」
知崎が手を差し出した。
「お父さんと帰ろう」
少女の肩が震えた。
緑谷の服を掴む指に、さらに力がこもる。
「……いや」
小さな拒絶だった。
けれど、彼女にははっきりと聞こえた。
知崎の目が、わずかに細められる。
「壊理」
声音は変わらない。
それでも、その場の空気が急速に冷えていくのが分かった。
彼女は知崎の殺気を肌で感じていた。
このまま緑谷たちが少女を渡すことを拒めば、何が起こるか分からない。
知崎は、ここで正体を知られるわけにはいかない人間だ。
緑谷も、ミリオも、相手がどれほど危険なのか、まだ十分には把握できていない。
何より、壊理が怯えている。
この状況を長引かせるのは危険だった。