第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編
私は息を呑む。
目の前にいるのは、サフィアの姿をしたAKUMA。
けれど、その奥で泣いている魂は、彼女が会いたいと願った男のものだった。
サフィアの皮を被り。
彼女が最期まで抱えていた「置いていかないで」という願いまで取り込んだまま、呼び戻された魂は壊れてしまっている。
サフィアの想いと、彼の魂に残った「置いていってしまった」という後悔が、AKUMAの中で混ざり合っている。
彼は、彼女を置いていったつもりなどなかった。
けれど、結果として彼女を一人にした。
サフィアは、彼に置いていかれたと思った。
けれど、彼もまた、彼女を迎えに戻れなかった後悔を抱えたまま死んだ。
二つの痛みが絡み合う。
置いていかれた痛み。
置いていってしまった痛み。
その両方を抱えたまま、サフィアの姿をしたAKUMAは、壊れた願いだけを繰り返していた。
――置いていかれるくらいなら、連れて行けばいい。
――置いていくくらいなら、一緒に死ねばいい。
だから、あのAKUMAは、大切な相手を持つ者を狙う。
誰かを愛している人間ほど、死の方へ引きずり込みやすいから。
その時だった。
「……もういい」
低い声が落ちた。
神田だった。
彼は静かに、六幻を構え直している。
蒼い瞳は、もうサフィアへ真っ直ぐ向いていた。
先程までの揺れは、そこにはなかった。
「勝手に、人の中へ入り込んでんじゃねぇ」
静かな声。
けれど、その奥にある怒りは本物だった。
「置いていったとか、置いていかれたとか」
六幻の切先が、静かに持ち上がる。
「そんなもん、とっくに知ってる」