• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編


私は目を伏せる。


神田はずっと、こうして一人で抱えてきたのだろうか。


誰にも触れさせず。

知られないように。


けれど、それを考えることさえ、今の私には踏み込み過ぎなのかもしれない。


その時、床へ散った灰の中から、何かが転がる音がした。

カラン、と。

私は反射的に視線を落とす。


黒く煤けた、小さな指輪。

先程の男が身に着けていたものだろう。


私は静かにそれを拾い上げた。


内側には、掠れた文字が刻まれている。


――帰ってきて。


喉の奥で『ニルヴァーナ』が僅かに震えた。


「サフィアは、大切な人を置いていきたくないと願う心に付け込んでいる」

静かに言う。

「その願いを、“一緒に死ねばいい”という形へ歪めているのね」


ナジームが小さく頷く。

「サフィアの目撃情報は、水路沿いに集中しています。この街の地下には、古い貯水路が張り巡らされていて、歓楽街の裏道としても使われているんです」


神田が不機嫌そうに舌打ちした。

「面倒な構造しやがって」


その時だった。

ふわり、と。
風に混じって、歌声が聞こえた。


――置いていかないで。

掠れた女の声。

泣いているみたいな響き。


私は反射的に足を止める。
神田の動きも、同時に止まった。


「……下か」

神田が、床の向こうを睨む。


微かに。
地下から、鈴の音が響いていた。

しゃらり、と。


ナジームの顔色が変わる。


「地下水路……」

/ 1033ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp