第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編
夜の路地裏は、歓楽街の喧騒が嘘みたいに静かだった。
石壁の隙間を吹き抜ける風が、乾いた砂を転がしていく。
ナジームに案内された先には、既に数人のファインダーが集まっていた。
その中央。
石畳の隅へ、黒い灰が薄く散っている。
私はゆっくり近付いた。
喉の奥が、僅かに震える。
残っている。
苦痛。
恐怖。
そして、どうしようもないほど強い願い。
――置いていかないで。
胸の奥が痛む。
私は膝をつき、灰へ手を伸ばしかけた。
けれど、その手首を強く掴まれる。
「触んな」
神田だった。
「残滓が濃過ぎる。お前、また引っ張られるぞ」
私は小さく目を見開いた。
神田は私を見ない。
ただ、灰へ向けた視線を僅かに険しくしている。
「……分かったわ」
静かに答えると、神田は一拍遅れて手を離した。
掴まれていた場所に、彼の熱が残る。
その時だった。
「あの……」
後ろから、小さな声がした。
振り返ると、薄汚れた外套を纏った少年が、怯えた顔で立っていた。十歳くらいだろうか。唇を震わせながら、灰の残る石畳を見つめている。
ナジームが静かに近付いた。
「君が第一発見者か?」
少年は小さく頷いた。