第24章 【第二十三話】恋人になった朝、揺れる剣
数秒の沈黙のあと、アレンが少しだけ冗談めかすように口元を緩める。
「……約束、忘れないでくださいね」
「約束?」
「ラビに泣かされた時の話です」
「……覚えてるわ」
「ならいいです」
アレンは満足したように小さく頷いた。
そして、私の横を通り過ぎようとする。
その時。
私はふと、以前なら彼が自然に私の髪へ触れたり、肩を気遣うように手を伸ばしたりしていたことを思い出した。
けれど今、アレンの手は下ろされたままだった。
私へ触れることなく。
それでも、優しい微笑みだけは崩さずに。
「……それじゃ、また後で。ティファ」
いつもより少しだけ軽い声。
背を向けるのが少し早かった。
私はしばらく、その背中を見送っていた。
以前と同じようには、もう戻れない。
けれど。
アレンが大切な人であることまで、失くしたわけではない。
胸の奥へ残る小さな痛みを抱えたまま、私はゆっくり顔を上げた。
もう、迷ってはいけない。
私は小さく息を吸い、静かに歩き出した。