第23章 【第二十二話】もう戻れない夜
消灯の鐘が鳴って、少し経った頃。
私は静かな回廊を、一人歩いていた。
教団の夜は冷える。
石造りの床へ落ちる靴音が、淡く反響する。
そのたびに、心臓まで落ち着かなくなる気がした。
窓の外には、白い雪。
月明かりを受けて、静かに降り続けている。
私は胸元をそっと押さえた。
鼓動が、うるさい。
けれど、足は止まらなかった。
やがて、中央塔の奥にある小さなチャペルの扉が見えてくる。
灯りは落ちている。
扉の隙間から淡い月光が零れていた。
私は小さく息を呑む。
そして、ゆっくり扉へ手を掛けた。
重たい音を立てて開いた先。
静かな礼拝堂。
高い天井。
色硝子から落ちる、蒼白い月光。
その中央に――ラビがいた。
どくん。
心臓が、大きく跳ねる。
ラビは祭壇近くの長椅子へ凭れ、静かにこちらを見ていた。
いつもの団服ではない。
黒のTシャツの上に、くたっとした濃い色の羽織りを無造作に重ねている。
いつもより少し乱れた赤い髪が、片方だけ覗く翠の瞳へ影を落としていた。
その姿は、普段よりずっと無防備で。
ただ一人の青年として、私を待っていてくれたように見えた。