第29章 組曲:月下の夢 ”北極星”
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あの日、ビルの屋上で響に言われたこと。
『お前を殺して終わりにできるなら、楽なんだがな。』
響はこう続けた。
『お前を殺しても解決しない。がお前に恋するのをやめさせなきゃいけない・・・
だから・・・
に、嫌われろ』
響が言うには、ここのところののPIHの悪化は、がボクへの恋心を自覚したことによるのだという。もちろん、そんなこと、にわかには信じがたかった。
『お前との接触と、発情までの時間的間隔、血液検査の結果、そして、何より、のお前に対する態度が物語っている。はお前のことが好きなんだ』
人を愛したことによって、性ホルモンの分泌が増してしまう。そして、それはPIHの増悪に繋がり、放っておけば、あと1週間もしないうちには自滅的な性行動を止めることができなくなるほど悪化すると、響は言った。
『猶予がない。1週間以内にをイギリスに連れて行く。』
そして、例えばボクがそばにいなくても、がボクのことを愛している限り、彼女のPIHは悪化し続け、治療はその効果の大部分を失うのだという。
だから、お前を今、殺しても無意味なんだ。
吐き捨てるように響は言った。
がボクのことを好きでいてくれた、というのはこの上なく嬉しいことだった。でも、同時に、それがの病を悪化させる要因にもなっている。
頭がくらくらする。世界が暗闇に呑まれたようだ。
なんだ・・・、彼女はボクに発情しないし、ボクは密かに彼女を愛することすら、最初から禁じられていたのか・・・。
どうしたら、いいんだろう。
ぐるぐると頭の中が混乱する。好きな子が自分のことを好きになると、その子は破滅する。好きな子に、好きだと言うと、その子を壊してしまう。
なんて、皮肉だ。
でも、悩んだのはホンの30秒ほどだった。
すぐに答えは出た。いや、すでに最初から答えは決まっている。
気づいちゃえば悩むまでもないことだ。
「もちろん、喜んで、嫌われるよ」
言うと、ニヤリと響は笑った。
「上等だ・・・。初めて意見が合ったな」
ボクにとって、いや、僕らにとって、の幸せこそが世界で一番大事なのだから。