第28章 組曲:月下の夢 ”朱い月”
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しばらくして、お兄ちゃんが来た。イギリスに行くと言ったんだって、と嬉しそうに言っていた。
私は、何か、ふわふわとした現実感のない状態で、その話を聞いていた。
胸が、さっきから痛くて仕方がない。
私がぼんやりしている間に、お兄ちゃんがあっという間に飛行機の手配、向こうでの入院の手配をしてくれたようだった。
そして、最後に学校で挨拶をしたほうがいいと言ってくれた。
最後・・・、陽太に、会える、最後・・・?
お兄ちゃんが、薬を注射してくれた。
「これはそう何度も使えないけど、一時的にホルモンの分泌を抑えるから、発情をしなくて済む」と言っていた。
その言葉で、やっと私は部屋を出る決意ができた。
薬の効果は約20時間。一度使うと次の投与までには48時間以上あける必要がある。そして、アンプルはあと1つしか持ってきていないので、それは、飛行機での移動のときに使う事になっていた。
「ちゃん!大丈夫?」
「さん・・・。心配したよ」
学校につくと、まっさきに大槻さんと優子ちゃんが声をかけてくれた。それ以外にも、長谷川くんや霧島くんも、そして、陽太も私のことをニコニコと見ていた。
陽太・・・。
声をかけようとしたが、喉につっかえるようで、うまく言葉にできなかった。
HRの時間、佐伯先生から、私がずっと脳の病気だったこと、
そして、イギリスで手術を受けることになったこと、
そのために、学校は休学することになったこと、
などが皆に伝えられた。
先生に促されて、私は皆の前に立つ。
「皆さん。これまで、本当にお世話になりました。
私は、休学して、皆さんと違う道を歩むことになります。
でも、ここで、この学校で得たことは・・・」
得た・・・こと・・・。
そうだ、優子ちゃん・・・、おんなじ秘密を分かち合えた、私の初めての友達。嬉しかったよ。
大槻さん・・・、いつも、優子ちゃんを支えていた、すっごく優しいの、知ってるよ。
霧島くん・・・、陽太をバカにしているようで、実はすっごく好きなんだってわかっている。いっつもいっつも、陽太、陽太って・・・、私、もしかしたら、あなたに嫉妬していたかも。
長谷川くんも、陽太に絡んでいるようで、陽太が困っているといつも助けようとしてくれていた。