第6章 Lesson5 芽吹き始めた才能
「……多すぎる」
新学期が始まって一週間。レイは、談話室の机の上に積み上がった羊皮紙の束を前に、腹の底から深々とため息を吐いた。
「まだ始まったばかりよ、レイ」
思わず漏れたレイの本音に、隣の席に座っていたハーマイオニーが顔を上げた。そう、まだ新学期は始まったばかりなのだ。だからこそ恐ろしい。
レイは目の前の課題を見下ろした。魔法薬学のレポートに、変身術の実技課題の考察。呪文学の復習問題に、次の授業で扱う範囲の予習まである。どれも手を抜けるような内容ではなく、ひとつ片づけたところで、机の上が目に見えてすっきりするわけでもなかった。
――甘く見ていたのだ。復学というものを。
これまでも、ホグワーツの宿題の多さには辟易してきた。けれど、何だかんだと文句を言いながらも、最後にはどうにかなっていたのである。
しかし、今は違った。去年一年間、レイはまともに勉強する生活から遠ざかっていた。授業に出席し、ノートを取り、帰れば課題をこなす。そんな当たり前の習慣が、すっかり身体から抜け落ちてしまっていたのだ。
知識が失われたわけではない。覚えていることも多い。それなのに、いざ机に向かうと、以前なら自然にできていたはずのことに時間がかかる。集中力も続かず、ひとつの課題を終える頃には、ひどく疲れてしまう。
たった一年弱で、人間の習慣とはこうも変わるものなのか。レイは愕然とした。
「ああ、ハリーとロンが羨ましい……」
「それじゃあ君も、ポッター達にならって今すぐ卒業するかい?」
向かいから聞こえた声に顔を上げると、ドラコ・マルフォイが涼しい顔でこちらを見ていた。
「僕としては、その方が好都合だ」と、口には出さずとも、彼の顔にはそんな考えがありありと浮かんでいる。いや、それどころか、結婚という二文字まで大きく書き込まれているようだった。
レイは苦虫を噛み潰したような顔をすると、反論する気力も惜しんで、再び羊皮紙に向き直った。