第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
振り下ろされた姑獲鳥の爪が、先生のすぐ手前で止まっている。
ポケットに片手を突っ込んだまま、五条先生が首を傾げた。
「久しぶりだね、姑獲鳥。僕の生徒たちを傷つけないでもらえる?」
その瞬間、姑獲鳥の黒い羽がぶわりと逆立った。
『……オマエ……ッ!!』
姑獲鳥が濁った瞳を大きく見開いた瞬間、黒い翼から無数の羽が鋭い刃のように飛び散った。
『……ジャマ、スルナァァァッ!!』
無数の羽がコンクリートの床を砕き、工場の鉄骨を次々となぎ倒していく。
「、伏せろ!」
頭を下げたが、私たちへ向かってきた羽は、突然、空中で軌道を変えた。
まるで一点に吸い寄せられるように集まり、ぐしゃりと押し潰される。
「生徒の前なんでね。カッコつけさせてもらうよ」
五条先生が、空いている手を軽く振った。
たったそれだけの動作で、目に見えない衝撃が爆ぜ、姑獲鳥が一気に吹き飛ばされた。
ガシャァンッと鉄骨がひしゃげる音が響き、壁にめり込んだ姑獲鳥が苦しげに呻く。
瓦礫の中から、姑獲鳥がずるりと身体を引きずり出す。
黒い羽はちぎれ、全身から噴き出していた呪力も、今は大きく揺らいでいた。
五条先生が姑獲鳥へと歩み寄り、片手をかざす。
けれど、姑獲鳥は今までの猛攻が嘘のように、恵くんの腕の中にいる私だけをじっと見つめていた。
「……。見るな」
恵くんが、私の顔を自分の胸へと抱き寄せた。
……どうして?
もう、終わるんだよね?
私は恵くんの腕の隙間から姑獲鳥を見た。
崩れ落ちそうになりながら、姑獲鳥がこちらへ向かって必死に腕を伸ばしている。
長い爪の生えた、青白い手。
その指先が、空を掻くように震えていた。
『…………わた、しの……可愛い、子……』