第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
どうして。
こんなに近くにいるのに。
あと少しなのに……!
名前を呼べば、気づいてくれるかもしれない。
「……っ!」
声を出しかけたが、慌てて口元を押さえた。
だめ。
絶対に、だめ。
姑獲鳥は、まだこの中にいる。
ここで恵くんの名前を呼んだら、確実に知られてしまう。
私のいちばん大切な人が、すぐ近くまで来ていることを。
そうなったら、きっと……。
「…………っ」
昨日、名前を呼んでしまった時のことが頭をよぎる。
もう二度と、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。
でも、このままじゃ恵くんたちは行ってしまうかもしれない。
どうしよう。
声を出さずに、ここにいるって伝える方法はないの?
その時、ふと目の前の白い布に視線が止まった。
よく見ると、布の向こうから、かすかに光が透けている。
外の光が、ここだけ届いてる……。
だったら、こっちから光を当てたら……?
向こう側にも、何か見えるかもしれない。
そうだ、ライト!
急いでさっきしまったスマホをもう一度取り出した。
もちろん、向こう側から見えるかどうかは分からない。
ただ漫然と照らしただけでは、外の光に紛れて見落とされてしまうかもしれない。
かといって、目立ちすぎれば、姑獲鳥に気づかれる可能性もある。
私がここにいるって、恵くんだけが気づいてくれるもの。
……あ。
これなら、きっと――。