第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
背中越しに、布団がわずかに沈んだ。
すぐ近くにの気配を感じる。
今まで、この家には三人いた。
津美紀がいて。
がいて。
俺がいた。
それが今日から、二人になった。
隣の部屋に行っても、津美紀はいない。
朝になっても、いつもの口うるさい声はもう聞こえない。
昨日まで当たり前だった三人での暮らしが、突然なくなった。
その事実が、急に現実味を持って胸にのしかかってくる。
「……」
俺は背を向けたまま目を閉じていると、がこちらに身体を寄せてきた。
背中に伝わる温もりを感じた途端、さっきまで詰まっていた息が、わずかに深く吸えるようになった。
帰れって自分で言ったくせに。
今夜だけは、がここにいてくれることがありがたかった。
「…………津美紀、起きるよな」
そう言葉にした途端、視界の端がじわりと熱を持った。
……くそっ。
俺まで弱ってどうする。
津美紀が目を覚ました時、ちゃんと迎えてやらなきゃいけない。
だっている。
耐えるように、奥歯を噛みしめた。
すると、が布団の中で俺の手を探して、ぎゅっと握った。
それから、は俺の背中に額をこつんと当てる。
大丈夫。
私はここにいるよ。
声なんかなくても、俺にはそう言っていることがわかった。
俺もその手を強く握り返す。
助けられる人間には限りがある。
誰も彼も救えるなんて、最初から思ってない。
だから俺は、不平等に人を助ける。
自分が助けたいと思ったやつを、助ける。
「……、お前は俺が絶対守るから」
そう決めたのが、あの夜だった。