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かるら怪談

第42章 精神病院にて


☆☆☆
その後、ふた月ほど経ったある日、私はHから呼び出された。
先日と同じ喫茶店でHと会う。
「なあ、前に話したRさんの話、覚えているか?」
もちろん覚えている。
「実は・・・」
そこで、Hが話したことは、意外なことだった。

Hが2回目にRさんと会ったのは、初診から1週間後のことだった。レビー小体型認知症を疑ったので、検査をするために呼んでいた。
今回はRさん一人で来ているようだった。検査の前の問診を終えて、Rさんが診察室を出た直後、Hの元に病棟から患者が急変した、という連絡が入った。本来は外来中は対応をしないが、その患者は状態が思わしくないため、H自身が対応するしかなかった。

急いで診察室を出ると、待合にRさんが座っているのが見て取れた。その隣に初老の男性が付き添っている。不安そうにしているRさんの肩に手をおいて穏やかに見つめる彼こそ、おそらくRさんの夫なのだろう。
『夫に事情を話せたんだ』
Hはちょっと安心した。このあと、夫の協力が得られれば治療も進むだろう、そう思ったのだ。

3回目にRさんに会ったのは検査結果が出たとき、2回目の受診から更に1ヶ月後のことだった。その時も、Rさんはひとりで来た。しまった、夫と一緒に来てもらえばよかった。そう思って、Hは苦笑した。夫に直接話せるならともかく、本人に話しても断られるだけか。
『夫』は彼女にとって知らない人、なのだから。

とりあえず、本人に検査の結果を説明する。『異常なし』だった。
これはレビー小体型認知症では珍しくない。身体の病気や他の精神疾患ではないというだけのことだ。
診断はほぼ確定しているが、本人に告知するのは難しいと思ったので、
「次はご家族といらしてください」
と告げた。これで少なくとも娘には会えるだろう。Rさんは黙って頷いた。
立ち去り際、これまで言葉少なだったRさんが一言、ぽつりと言った。

「私は病気ですか?」
「『夫』が家にいるんです。どうしたらいいか・・・」
「『夫』は私を殺そうとしているかもしれない・・・」
彼女にとって知らない『夫』と暮らすストレスは相当なのかもしれない。
「もし、お辛いようでしたら、前回よりもう少し強い薬をお出しします。可能であれば、娘さんの家に行くこともご検討されては?」
とHは告げた。

Rさんは薬を求め、深々と頭を下げて診察室を後にした。
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