第40章 黒い人
それはそうと、夏休み中、姉は元気に過ごし、今までは一人で摂っていた夕食も家族と食べるようになりました。引きこもっていたせいか、若干やつれたように見えましたが、顔色もよく、本当に元気になったんだなと思いました。
危ぶまれていたのですが、2学期になっても姉は学校に行き続けました。
母も祖母も本当にこれで一安心、と思ったに違いありません。それからは特に問題もなく日は過ぎ去り、早や半年が経とうとしていました。
実はその間も、変化がないわけではなかったです。あとから考えればあれは予兆だったのでしょうが、先ほど言った『ちょっとした違和感』は続いていましたし、何より、姉はよく食べるようになりました。
私は小さい頃からよく食べる子で、前は姉の2倍近く食べていましたが、その私にも負けないくらい、いや、私以上に食べるようになったのです。
そして、あんなに人一倍食べているにも関わらず、ものすごく痩せていったのです。
そんなある日。とうとう、あの出来事が起こりました。
私が小学校4年に上がり、梅雨に差し掛かった頃。ジトジトとした雨が降っていたのを覚えています。私が学校から帰ると、姉の靴がすでに玄関にありました。
中学生の姉は、いつもなら私よりずっと後に帰ってくるので、おかしいなと思いました。中間テストだろうか?と思いましたが、それはちょっと前に終わったはずです。
『具合が悪くて早退したのだろうか?』
奇妙に思いながら、三和土を上がりました。
家の中はしんと静まり返っています。父は仕事に出ているのですが、母もいないのだろうかと訝しく思いました。
見回している内に、客間から物音がするのに気づきました。ガタっとか、クチャとかそんな音だったと思います。
私は恐る恐る客間の襖を開いてみました。
そこにいたのは姉でした。
姉が、制服姿のまま、こちらに背を向けて、なにかの上にかがみ込んでいます。クチャクチャという音は姉が発していたようです。
「お姉ちゃ・・・」
言いかけて私は固まりました。姉が覆いかぶさるようにしている下にいるのが祖母だとわかったのです。そして、畳が流血で真っ赤に染まっていることも。
息を呑む私に気づいたのか、『姉』が振り返りました。
その時の光景は生涯忘れないでしょう。
姉の口元は真っ赤に染まっていました。もちろん祖母の血です。
