第35章 人形
この2月の来署の際、Aさんは、たまたま生安の相談室前で、頬がコケて、顔色が悪い男性を案内しているKさんを見ていた。あとになって、その男性がFさん自身だったのだと教えられ、初めて『ああ、あいつがそうなのか』と、その顔を認識したのだった。
「それにしても随分具合悪そうだったじゃねえか。そこそこいい男、なんて言ってた割にわよ」
AさんはKさんに言った。それほど、その男性の様子は傍目に見てもおかしかったのである。
「いや、2ヶ月前はあんなんじゃなかったんだ。例の人形はまだ送り続けられているらしくて、やっこさんだいぶ参ってしまったようなんだ。今日なんか、『変な夢を見る』とかなんとか言っててな、うつ病かなんかになってるんじゃないか?」
「生安じゃ何もしてないのか?」
「いや、1月に相談に来たあとには、地域に頼んで巡回を増やしてもらったりもしたんだが、人形はいつの間にか入れられているらしく、一向に犯人らしきヤツの正体はわからなんだ」
「気の毒だな」
「まあ、気の毒だが、ちょっとこれ以上はどうすることもできない。今日も、しっかり戸締まりしろと言って帰すだけしかできなかったよ」
「ところで、Kは、その人形とやらを見たのか?」
「ああ、1月に一回、今日も見せてもらった。さすがに不気味で、手元に置いておきたくないらしく、ここに持ってくるもの以外はほとんど封も開けずに捨ててるらしいから、一番最近届いたもの、ひとつだけを持ってきたみたいだった。確かに、不気味なほど精巧にできているんだ。最近はもっぱらフィギュアになっているらしい。大きさは俺が見たやつは両方とも背丈が15センチ位だった。たまに、大きかったり小さかったりするらしい。」
たしかにあんなのが送られてきたら気味が悪いよ。
Kさんはそうつぶやいた。
「結局、その後、FはS警察署に現れることはなかったんだ。あ、いや、一度だけ来たことは来たな・・・」
それは、4月の中旬頃だった。
車椅子に乗ったFを連れた中年の女性が署を訪れたのだった。車椅子を押しているのは、Fと同じくらいの年の髪の毛の長い、地味な感じの女性だった。