白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第1章 ◯ 十段戦とネクタイピン ●
十段戦第3局を2日後に控え、緒方は自宅のクローゼットの前で立ち尽くしている。こんなことで悩むなんてオレらしくないぞ…と内心で毒づきつつ、手に持つのは星歌が贈ったネクタイピン。ひまわりモチーフのブレスレットを常に身に着けている星歌を思いだすと、あんなに堂々と着けてくれているのに…と、胸がチクッとする。このネクタイピンは、タイトル戦のような特別な対局で使おうと思っていた。だが、十段戦の第1局でも第2局でも着けられなかった。彼女からのプレゼントを身に着けるなんて、恥ずかしいだろ…と、頬が熱くなる。
星歌の笑顔が第2局の前にも励みになったと思いだしながら、鏡の前でネクタイピンを留めてみる。碁石のようなデザインに、碁打ちにぴったりだよな…と、ニヤリとしたと思えば、すぐに顔が赤くなる。ブレスレットは袖口に隠れて目立たないが、ネクタイピンは目立つ場所にあるんだよな…。誰かに「緒方さん、それどうしたんですか?」なんて聞かれたら…と想像すると「これ、いいだろ?プレゼントなんだよ」と、サラッと言えばいいだけだと分かっているが…。白川は「もしかして星歌ちゃんから?」なんてニヤニヤしてくるだろう。アイツは今ではオレたちのことを応援してくれているが…からかわれるのはシャクだ。
本音じゃ、星歌のことを自慢したいと思う。あの笑顔やキラキラした目…。星歌が恋人だなんて、胸張っていいだろと、独占欲がムクムクと湧く。だが、やっぱりネクタイピンを着けて対局するのは照れるぞ…と、鏡の自分に苦笑い。そうこうしている間に、星歌はどう思っているんだ?という不安も生じてくる。いっそのこと「ネクタイピン着けてね」と言ってくれりゃいいのに…。
ソファに座り、目を閉じる。第3局、ネクタイピンを着けてみるか…。いや、でも…と思考は堂々巡り。タイトルを獲る男がこんなことで悩んでどうする?と、闘志を奮い立たせると同時に「精次さん」と星歌の声が脳裏に響き、白川のニヤニヤ顔が目に浮かぶ。あの笑顔のためなら、ネクタイピンくらい…いや、やっぱり恥ずかしい!と、緒方は1人で葛藤を繰り返していた。