第3章 交錯する想い
タブレットの画面を覗き込みながら、恵くんが小さく眉を寄せた。
「低級呪霊が大量発生……前も似たような任務なかったか?」
指先でスクロールされる資料には、見覚えのある配置と文言が並んでいる。
───三年ほど前。
まだ今ほど息が合っていなかった頃。
大量の呪霊の群れに追われ、崩れかけた施設を回った任務の記憶が ふと脳裏をよぎった。
「うん……。でも、病院や学校の取り壊し前だと、仕方ないかも」
そう呟きながら、あの時の光景を思い出す。
使われなくなった病室、割れた窓、剥がれかけた掲示物。
人の気配が消えた場所ほど、感情の澱は濃く残る。
「それもそうか」
返事は短く淡々としているけれど、完全に納得しているわけじゃない。
だから、少しだけ身を乗り出して、明るく言った。
「大丈夫だよ!次も私がバッチリサポートするからね!」
軽く拳を握って見せると、恵くんは一瞬だけこちらを見る。
視線が絡んだのにすぐに逸らされて、自然と首が傾いた。
「………ああ、」
返事は短く、素っ気ない。
けれどそこには、ほんの一瞬だけ言葉を選ぶような間があった。
タブレットから視線を外した恵くんは わずかに肩の力を抜き、情報を読み進める。
いつもならもう少し早く話を切り上げるはずなのに、今日は、視線を伏せたまま暫く黙っていた。
「……無理はするなよ」
ぽつりと零れた一言は、ほとんど独り言みたいで。
私に向けられたものなのか、自分に言い聞かせたものなのかも、曖昧だった。
「大丈夫だよ」
そう答えて、少しだけ距離を詰める。
恵くんは一瞬驚いたように目を見開いて私を見た後、すぐに目を逸らした。
大丈夫。
恵くんが前へ進もうとするなら、私はその背中を支える。
何かあった時に一番に貴方を守れるように、私は傍で見守るの。
───それが、私の役目だから。