第44章 オートマータ
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モルフェの話が出てから3日後の午前中、新宿でランチがてらモルフェを探してみよう、ということになった。そこでたどり着いたのがここである。
「え?マジ?ほんとにあったよ」
優里が聞いた噂通りだという外観だった。パッと見た感じは古い喫茶店の間口にも見えた。重そうな木製の扉に、これも木でできた年季の入った札がかけられている。そこには、『Oniromancie Morphée』とあった。大学時代、ちょっとだけ習ったフランス語の知識を動員すると、ここが『夢占いの店』であり、『モルフィ』という名だとは分かった。確か、モルフィはモルヒネの語源、だった気がする。
「すっごーい!里宇!さすが才媛だね」
優里が褒めてくれるが、なんとなく居心地が悪い。
そう、私は学歴こそ高かったし、大手銀行という良い就職口にも恵まれてはいたが、そこで知り合った夫と結婚、夫の求めもあり、専業主婦に収まっている身だ。
共働きをしなくても子どもたちを養えるだけの旦那がいていいなあ、と羨ましがられるし、今の生活に不満はないのであるが、なんとなく『働いてない』ことに引け目も感じる。毎日、家事と育児ばかりで、世の中に触れるのは子どもたちを通してのみ。時間はあっという間に過ぎていくけれども、なんとなく世界に取り残されている感じがするのは否めなかった。
じゃあ働けばいいじゃないかと思うのだが、私は、勉強はそこそこできるが、別に特技と言えるものもなく、副業的に稼げるなにかも思いつかないのだ。その点、優里はアクセサリーを自作して販売しているし、亜希子は挿絵やイラストを受注して描いていると言っていた。ふたりとも、自分で稼げる力があるのだ。
羨ましい。
「ねえ、入ってみようよ」
そんな私の考えなどわかるわけもなく、二人は目をキラキラさせてモルフェの扉を開いた。結構重たい扉を内側に押していくと、カランカランと鈴の音がなる。どうやら扉の上に鈴がついており、来客を知らせる仕組みになっているようだ。
中は薄暗く、天井から暗幕のようなものが何条も垂れ下がっていた。そこに月や星、星座をモチーフにしたような銀の飾りがぶら下がっている。夜空を表現している、といったところだろうか。店内は幅が狭く、少しひんやりとしている。奥の方に少し厚手の黒いカーテンが引かれていた。
