第12章 夢幻のネコ
帰ってもなあ・・・。
足取りが重い。まだ昼下がり明るい内に歩く街はなおさら人がいない。
8月の空は抜けるように青いが、俺の心の中はどんよりしている。どうしたら晴れるのかもわからない。
ああ、音子と海に行った日も、こんな天気だったな。
海・・・海か・・・、
そう言えば・・・。そう言えば!
俺はスマホを取り出した。フォトギャラリーを開く。
一番最近の写真が目に飛び込んできた。
夕日が差す七里ヶ浜。
白いつば広帽を押さえている。風がワンピースをひらりとなびかせていた。
輝くような笑顔。
音子・・・!
視界が曇る。鼻の奥がツンとした。
馬鹿だな・・・俺。
いるじゃないか・・・。確かに、いたじゃないか。
間違いない。あの笑顔も、あの温かさも、全部全部、夢じゃなかった。確かに、音子はいたんだ。
スマホの画面を胸に押し付け、天を見上げる。
俺は、お前にとって何者でもないけど、探す権利はないけれども。
せめて、もう一度、会いたい。
だって、俺は・・・まだお前に何も伝えられてないじゃないか。