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ネコの運ぶ夢

第4章 雨の日のネコ


「嘘だ。」
思っていることがそのまま声に出た。
ビクッと市ノ瀬さんが笑うのをやめる。

「いや、あの・・・その・・・会社で借りてきて・・・」
別に悪いことをしたわけでもないのに、しどろもどろなので、私はおかしくて吹き出してしまった。

「いいですよ。音子はお迎えができて嬉しいですから!
 あ、そうだ!その傘、大きいですねぇ。一緒に音子も入れそうです。
 相合い傘してもいいですか?」

私は市ノ瀬さんの腕に飛びつく。もちろん、市ノ瀬さんは身を捩って距離を取ろうとするが、そうはさせない。

「おいおい・・・や・・やめろって。あ、相合傘って・・・そんな・・・ちょ、ま・・」

そんなこと言ってもやめない。やめてあげない。
だって、私は音子だから。ネコ、だから。

そして、私は、市ノ瀬さんが優しいのを知っているから。

相合い傘!相合い傘!
一生懸命お願いすれば、

最後には、ほら、
ちゃんと、傘に入れてくれるんだ。

雨の中。こうして同じ傘に入っていれば、温かい。雨も、冷たくない、怖くない。

「お前、昼間って何してるの?」
市ノ瀬さんが尋ねてくる。
ぎゅっと腕にしがみついて私は答える。
「ネコだから、顔を洗ったり、お昼寝をしています!あとは、市ノ瀬さんを待ってます!」
んが、と市ノ瀬さんが変な声を上げる。
なにか妙なことを言ったかな?

「今日は雨ですけど、こうして、市ノ瀬さんと相合傘できて、音子は嬉しいです!」
「おい・・・あんまりくっつくなよ・・・」
「くっつかないと、’濡れます。音子は濡れたらダメなんです」
「押すなよ、俺が濡れるだろ」
「もっと、音子にくっつけばいいんですよ?」
「お前・・・もう・・」
なにか言いかけたが市ノ瀬さんは全部言わず、ぷいとそっぽを向いてしまった。

今日は、市ノ瀬さんがお夕飯を作ってくる日。
私はキッチンでお料理している市ノ瀬さんを見るのが大好きだ。
味見をさせてもらったり、冷蔵庫から物を出すのを手伝ったりもする。

家にいても楽しい。
お外にいても楽しい。

音子は、市ノ瀬さんの隣だと、とても嬉しい。

私は音子で、今夜はどんなふうに甘えてやろうかと考えている、そんな甘えん坊のネコ。
そんなふうにいさせてくれる、市ノ瀬さんのことを、私はやっぱり好きなのだ。
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