第1章 死にたがりに口づけを
「ねえ、人間くん」
早川アキはそう呼ばれ、面倒そうに視線を投げた。悪魔討伐を終え、後処理や報告でテキパキと動いているというのに、天使の悪魔は倒した悪魔の腕をちぎり、呑気に血を啜っている。
容姿端麗な見た目に反するグロテスクな食事風景は、美しい少年が悪魔だという事実を物語っていた。
「人間ってさ、脆くて弱くてほっといてもすぐ死ぬのに、どうして自ら命を断とうとするのかな」
「どうした急に」
「飛び降り自殺の現場に居合わせてさ」
早川は表情を崩さぬまま、静かな声音で尋ねる。
「…見殺しにしたのか?」
「ううん」
天使の悪魔は口に含んでいた血液をこくんと飲み込んだ。血を吸い終えた腕をポイっと捨て、無機質な顔で言う。
「民間人との不必要な接触は禁止されてるし、見学してたら中断して帰った」
「そりゃあよかった」
「よかったのかな。僕としては、邪魔して悪かったなって思ったけど」
早川はそれ以上会話を続けず、「帰るぞ」とだけ呟いた。
帰り道、天使の悪魔にアイスをねだられ、早川は渋々コンビニに寄った。ソフトクリームを買い与えると、いつも虚ろな天使の悪魔の表情が、ほんのわずかに嬉しそうに見えなくもない。
「キミ、銃の悪魔に復讐するためにデビルハンターになったんだってね」
誰から聞いたのかと問うと、天使の悪魔はマキマの名前を挙げた。マキマであれば、バディとして早川の情報を共有したのだろう。
早川は、こみ上げる不満を押し殺して天使の悪魔を睨む。“これ以上詮索するな”という意思を込めた目だったが、天使の悪魔は気にする様子もなく続けた。
「戦って死んでも、自ら死を選んでも、命の価値は同じなのに、どうして復讐を選ぶの?」
「愚問だな。少なくとも、悪魔であるお前の質問に答える気はない」
公安一の悪魔嫌いとして知られる早川。まして姫野を失ったばかりでもあり、表面こそ冷静でも、新たなバディが“悪魔”であることへの不信と嫌悪は隠しきれていなかった。