第69章 淫らな練習〜時透無一郎 冨岡義勇 不死川実弥【R強強】
しのぶが去った後、静まり返った病室で、ゆきは自分の震える指先を見つめていた。
無一郎を傷つけたいわけではない。
しかし、拒絶された無一郎のあの悲しげな、表情を思い出すだけで胸が締め付けられる。
「変わらなきゃ。このままじゃ、本当に無一郎くんを壊してしまう」
翌朝、控えめに扉を叩く音が響いた。現れたのは、昨日とは打って変わって、どこか気まずそうに視線を落とした無一郎だった。
「おはよう、ゆき…。昨日は、ごめん。怖がらせるつもりじゃなかったんだ。ただ冨岡さんとの事嫉妬しちゃって…」
か細く話す声に、ゆきの胸がズキリと痛んだ。無一郎くんは何も悪くない。悪いのは、あの日から自分を支配している忌まわしい記憶だけ。
「無一郎くん…」
ゆきは深く息を吸い込み、シーツを握りしめていた手を、ゆっくりと無一郎の方へ差し出した。
「私…無一郎くんに、嫌われたくないの。でも、今はまだ、体が勝手に強張っちゃうだけで…。だから、練習させてほしい。無一郎くんに、ちゃんと触れられるようになりたいの」
無一郎は驚いたように目を見開いた。
「練習…?」
「うん。無一郎くんに触れたいの、まずは、手から。少しずつでいいから」
無一郎は戸惑いながら、ゆっくりとゆきの指先に自分の手を近づけた。
「嫌だったら、すぐに言って。すぐ止めるから」
無一郎の指が、ゆきの肌に触れる。 その瞬間、脳裏に一瞬だけ泥まみれの男たちの影がよぎり、ゆきの体がビクリと強張る。呼吸が浅くなり、視界が歪みそうになった…。
しかし、無一郎の肌の熱は、山賊たちの冷酷な感触とは全く別のものだった。
「大丈夫…。これは無一郎くんの手」
自分に言い聞かせるように呟くゆきを、無一郎は静かに、ただ静かに待ち続けた。
やがて、ゆきの強張っていた指の力が抜け、無一郎の掌に自分の掌を乗せれた。
「できた。触れたよ無一郎くん!怖くない!」
震える声で微笑むゆき。無一郎はその小さな手を、壊さないように、包み込んだ。
「焦らなくていいよ。君が、怖くなくなるまで、何年でも待つから。昨日は本当にごめんね。」
「ありがとう…私こそごめんなさい」
病室からそんな会話が聞こえてくるのを廊下で義勇が静かに聞いていた…