第112章 言えない〜時透無一郎 冨岡義勇【R強強】
無一郎が、急いで屋敷に戻って来ている事など、義勇も幸もゆきも考えてもいなかった。
屋敷では、今日もいつも通りの静かな時間が流れていた。
いつも通り義勇と屋敷を訪れていた幸は、ゆっくりとゆきの診察をしていた。
「今日は、調子どうですか?」
「大丈夫です。吐き気も収まって…」
穏やかに話すゆきを前に、幸の胸の奥にはずっと抱え続けていた問いが渦巻いていた。
愛おしそうにお腹を撫でるゆき
このお腹に宿る小さな命は、義勇の子なのか、それとも無一郎の子なのか
真実を確かめねばならない。ゆきさんもずっと不安定だし…今は師範も席を外して居ない。
幸はゆっくりとゆきに寄り添い、秘めやかに囁いた。
「ゆきさん、月のものは……いつから止まりましたか?」
もし、師範と身体を重ねるより前に途絶えていたとすれば……答えはひとつしかない。
ゆきが唇を開き、答えを紡ごうとした、その瞬間だった。
バタバタと廊下を揺らす荒々しい足音が響き渡り、勢いよく襖が開け放たれた。
驚きに目を丸くするゆきと幸の視線の先
そこに立っていたのは、肩を大きく上下させ、荒い息を吐き出す無一郎だった。
乱れた長い髪、汗に濡れた額…
呆然と声を失うゆきの前に、無一郎は迷わず歩み寄った。
傍らの幸を押し退けると、溢れんばかりの情熱でゆきを強く、深く抱きしめた。
「ゆき…! 寂しい思いをさせて、不安にさせてごめんね……。」
愛する人の温もりと、腕から伝わる微かな震え。
「む、無一郎くん、何で?任務は?」
「急ぎで、帰ってきた。鬼の出現は落ち着いている。お館様にも二日で戻りますと銀子に報告に行かせた。」
ぎゅっと抱き締めてゆきを、無一郎は離さなかった。
幸が、少し手荒になっている無一郎の行動にゆきに、障りがあってはいけないと思い、焦りを感じ声をかけようとした時だった…
「冨岡さんの継子の君…空気読んでさ、部屋を出てくれないかな?」
ゆきに、向けた目とは違う冷たい視線を幸に無一郎は、向ける。
「あ、あのゆきさんは調子が悪くて、優しく抱き締めてあげてください。」
無一郎は、その言葉に眉をひそめた。