第4章 薄紅色の恋(冨岡義勇)
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「……両親は?」
何処かに出かけてきた水柱様は、玄関の履物が私の分しかないのを見て尋ねられた。
『馬車が思ったよりも早く来て、先程帰りました。手配をしていただき、ありがとうございます。あと、お土産も…』
「いや……すまなかったな、色々。」
『いえ…』
水柱様は私の前を通り過ぎようとし、足を止めた。
「…少し話せるか?」
『はい。』
良ければ、と手渡された袋の中には桜餅が入っていた。
『わぁ…桜餅、好きなんです。』
「……縁側にいる。」
お茶を淹れ、桜餅をお皿に移すと縁側に向かった。
水柱様は庭を見つめていたけれど、表情は曇っているように見えた。
何を話したらいいのだろう…
『遅くなりました…』
座って良いか伺うと、頷いて下さった。
お互いお茶を啜り、言葉のない中、時間だけが過ぎていった。
何か話題を…
水柱様が買ってきて下さった桜餅を口に入れると、驚いて声が出た。
『…っ…美味しいっ。』
「…ふっ…好みは昔のままだな…」
水柱様は柔らかく微笑んでこちらに目を向けた。
笑った顔…
初めて見た。
心臓がドクンと高鳴った。
「お前が昔、桜餅が好きだった事を思い出した。
甘露寺はわかるな?彼女が絶賛する店の物だ。間違いはないと思って買ってきたが…
気に入ったならよかった。」
確かに美味いな、と水柱様も菓子楊枝に刺した桜餅を口に入れた。
また、時間だけが過ぎていった。
先に口を開いてくださったのは水柱様だった。
「幼い頃…姉は俺を庇い鬼に食われ、亡くなった。」
『…っ……』
急な話題に驚き、息が詰まった。
「天涯孤独になったが、狭霧山で2人の仲間と一緒に育って…いく分か気持ちが楽になった。1人はお前、もう1人は錆兎という少年だ。そしてお前がいなくなり、錆兎も選別で亡くなった。」
『…………』
息が詰まって、うまく呼吸ができない。
「親友の錆兎が亡くなった時……死ぬのは俺で良かったのではないかと…考えない日はなかった。」
『っ…そんな事…』
「信じられないだろうが、そのあたりから何を食べても味がせず、何かを面白いと思うこともなくなった。ただただ鬼を斬る毎日だった……だが…」
水柱様は再びうっすらと微笑まれた。