第20章 「君の心をさらったその日から**」
初夏の忙しさがようやく落ち着き、呪術高専は束の間の夏休みに入っていた。
廊下を歩きながら、何気なく窓の外に目を向ける。
いつもなら見えるはずの、訓練している生徒の姿はなくて。
校庭も、校舎も妙にがらんとしていた。
聞こえるのは、遠くで鳴く蝉と、どこかの教室で回り続ける空調の低い音だけ。
(……静かだな)
そのとき、硝子さんから連絡が入った。
遺体の検屍が、終わったらしい。
私は急いで硝子さんのいる医務室に向かった。
ドアを開けると、先生は先に来ていてソファに座っていた。
私もその隣に腰を下ろす。
硝子さんは壁際のモニターに視線を向け、静かに口を開いた。
「運ばれてきた二体の遺体。皮膚、臓器、血管組織――どれも、死んだ直後に細胞の壊死が止まっていた」
先生はいつもの軽口はなく、静かに腕を組んで硝子さんの報告に耳を傾けている。
硝子さんはマウスを操作し、画像を拡大した。
画面いっぱいに映し出されたのは、遺体の胸部に咲いたあの白い花。
「そして、花が咲いたのは種子のようなものを起因としていたことがわかった」
先生が首を傾げる。
「種子?」
「これだ」
硝子さんは手元のケースから、小さなシャーレを取り出して見せた。
ガラスの中に転がっていたのは、黒くて、ごく小さな……種のようなものだった。
けれど、それは植物の種にしてはあまりに異質で。
表面には微細なひび割れが広がっており、その隙間から短く細い根が何十本も生えていた。
それを“根”と呼んでいいのか、一瞬、迷ってしまう。
「解剖した遺体から採取した。生前に体内に取り込まれて、死後に発芽――ってところだな」
先生が目隠しの端をいじりながら、低く唸るように言った。
「その種が《Re:bloom》で売られていた“商品”に、仕込まれていたってことか」
「おそらくな。ドラッグや食品の中に入っていたとしたら、本人が知らずに口にした可能性が高いだろう」
「あと、もう一つ。遺体から咲いた白い花を“切除”したんだけど……」
「腐敗が始まった?」
先生の問いに、硝子さんが頷いた。