第19章 「死に咲く花」
「なんだよ? お行儀よくする場所じゃないでしょ?」
そう言いながら、五条は悪びれた様子もなく、部屋の中へと足を踏み入れた。
そこは、ひんやりとした空気が淀む地下空間だった。
照明は一部が切れ、蛍光灯の明滅が断続的に室内を照らしている。
「……嫌な匂いですね」
七海が鼻をしかめる。
酸化した金属と、薬品のような刺激臭。
そして、何かが焦げたような、微かに生臭い空気が肌にまとわりついてきた。
五条がゆっくりと歩を進め、室内を見渡す。
蛍光灯のちらつきが、一瞬だけ彼の横顔を照らした――
そのときだった。
「……なんだ、お前ら!?」
怒鳴るような男の声が響いた。
二人が振り返ると、
先ほど五条が蹴破った鉄扉の先に、一人の男が立っていた。
黒いパーカーのフードを目深にかぶり、片手にはコンビニの袋を持っている。
五条は片手をポケットに突っ込んだまま、軽く首を傾けた。
「客に見えるなら眼科行けよ、三下」
「呪術師ですよ。真っ当な」
七海が無表情のままそう告げると、
男は目を見開き、踵を返して逃げ出した。
「あ、逃げた」
五条がわざとらしく肩をすくめる。
七海が追いかけようとすると、
逃げた男の足元が爆ぜ、床が割れた。
その衝撃で男の体が宙に浮き、背中から壁に叩きつけられる。
「っ……動け、……くそ、何だよこれ……っ」
呻きながらもがこうとする男だったが、
全身は床に縫い付けられたように沈み込み、びくりとも動かない。
「五条さん、ありがとうございます」
「お前も歳だろ、走るの大変かと思ってさ」
五条が涼しい顔で片手をひらひらさせる。
七海はそれには応じず、わずかに眼鏡の位置を直した。
(……いちいちイラつきますね、この人は)
床に転がる男を確認し、短く息を吐く。
(ですが、無駄な労力を使わずに済んだ)
七海はそう結論づけ、意識を切り替えた。