第6章 甚爾という男
「……お前、強がってるけど、本当は寂しいんじゃねえの?」
言葉を投げた瞬間、紫苑の指がわずかに止まるのがわかった。
(ほらな)
「何それ」
「いや、何となく」
紫苑は笑うが、その目は少しだけ揺れた。
これが必要だった。
女は、「自分のことを見抜かれた」と思った瞬間に心を許す。
そして、「この男は自分のことを理解している」と錯覚する。
だから、甚爾はあえて核心を突くようなことは言わない。
ただ「何となく」と誤魔化す。
紫苑が勝手に答えを出すように。
紫苑は、ゆっくりとワインを口に含む。
「……もしそうだったら、どうするの?」
(言うと思った)
甚爾は、答えない。
ただ、紫苑の頬に手を伸ばし、指先を触れさせる。
紫苑が、自分の中で答えを出すのを待つ。
——そして、その夜、再び紫苑と体を重ねた。