第10章 神と、仔等(DMC4原作沿い)
静寂の中、バージルはビアンカの呼吸音を聞いていた。
(……何をしている)
こんな契約など、本来なら不要なはずだった。
それなのに、彼女が死ぬことを、俺は恐れた。
そんなはずはない。
バージルは冷徹であることにこそ価値を見出してきた。
それなのに、何を迷う?
何を惜しむ?
「面白いことを考えたわね」
突然、背後から女の声が響いた。
「……!」
バージルは瞬時に振り向き、幻影剣を展開する。
そこにいたのは、漆黒の衣をまとった女、トリッシュ。
「彼女、本来ならあのまま魔界に引きずり込まれていたでしょうけど……半魔とはいえ、あんな土壇場で魔女と契約できるなんてね」
彼女は興味深そうに微笑んで、ビアンカの寝顔を見下ろした。
「……」
バージルは反応しない。
ただ、彼女を見据えながら無言で剣を構え続ける。
トリッシュは肩をすくめた。
「あら、警戒しないで。別に彼女を傷つけるつもりはないわ」
「……」
バージルは再び視線を落とす。
ビアンカは気を失ったまま、静かに眠っている。
彼女が魔力を奪われ、命を落としかけていたことは事実。
だが、今は俺と繋がっている。
彼女の魔力の乱れが、俺の魔力によって安定しつつあるのを感じる。
……そうだ。
俺は、ビアンカを喪いたくなかった。
その事実を、認めざるを得なかった。
「……」
こんな気持ちを抱くことになるとは。
それでも、俺は……彼女がいなくなるのが怖い。
ビアンカも、バージルも、口に出して確認することはなかった。
それでも、二人はもうとっくに夫婦になっていたのだ。
それは、契約などしなくとも、ずっと前から決まっていたことだったのだろう。
「運んであげましょうか?」
トリッシュが軽い調子で言う。
バージルは、その言葉に眉一つ動かさず、静かに告げた。
「不要だ……ビアンカに触るな」
「……」
トリッシュは目を見開き、次の瞬間、くすりと微笑んだ。
「……あら怖い」
彼女はそれ以上何も言わず、バージルの脇をすり抜け、闇の中へと消えていった。
バージルは何も言わず、ただビアンカの身体をしっかりと抱き直し、そのまま静かに、歩き出した。