第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
中庭に面している縁側で、空を見上げながらビードロ玉をかざしている七瀬を見つけた。
柚子の香りの正体は、七瀬の隣でザル一杯に干されている柚子の皮の匂いだった。
「何してるの?」
「!っわぁ無一郎さん、お帰りなさい!柚子の皮を沢山貰ったから干してたの、お茶にしたり、匂い袋の中にいれたりねっ」
無一郎の事を考えていたら急に本人が現れて、七瀬は驚いた様に慌てて言った。
慌ててビードロ玉をポケットに入れようとして、入れ損ねたビードロ玉がポケットに弾かれて無一郎の方に転がった。
無一郎の足元に静かにコロコロと転がっていくビードロ玉をみながら、七瀬の顔が赤くなる。
『ああ…、私って本当に…』
最近は無一郎の顔を見ただけで、焦ってしまう。
顔を隠したくなる気持ちを抑えて、七瀬は屈んでビードロ玉を拾う無一郎を見ていた。
「…君って本当によく落とすよね…」
それがまるで、自分達の出会いの時を言っている様で、記憶障害の無一郎がそんな事を覚えているはずないのに、胸が痛いくらいにドキドキした。
「はい、もう落とさないでね」
七瀬の手に自分の手を添えて、無一郎は七瀬の手のひらにビードロ玉を置いた。
「ありがとう……」
そう言ってのぞいた手のひらに、七瀬は目を見開いた。
コツンと手のひらでぶつかり合った2個のビードロ玉に、思わず息を呑んだ。
水色のビードロ玉と黄色のビードロ玉が寄り添う様にそこにあった。
七瀬は顔を上げて無一郎を見た。
伺う様に自分を見上げる七瀬を見下ろして、無一郎は小さく息を吸った。
「ソレ見た時に七瀬を思い出して買ったんだ」
そう目尻を下げて、優しく微笑んだ無一郎に、七瀬は目頭が熱くなり、我慢する様に目を細めた。