第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
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ずっと頭の中が霧かかっていた。
何かを見てもぼんやりとしていて、それが何なのか、誰なのか思い出せない。
『あれ?ここの店、この前七瀬と通ったっけ?』
柱合会議の帰りに無一郎はふと足を止める。
記憶にあった『ソレ』を手にして、頭の中に七瀬の笑顔が浮かんだ。
ボヤッとした霞の中の世界で、七瀬の笑顔だけは鮮明に思い出される。
自分に向けられる七瀬の笑顔を思い出すたびに、無一郎もまた目尻を下げて笑顔になる。
もう分からないなんて思わなかった。
認めよう。
この気持ちはしっかりと、七瀬を好きだ。
だからこうして町を歩いていて、七瀬の記憶を思い出し、早く七瀬に会いたくなる事は当たり前の事だ。
その後の帰路が足早になったのは、七瀬の待つ場所に早く帰りたかったからだ。
そこは無一郎の心が唯一落ち着く場所だから。
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【霞屋敷】の裏門の扉を開けると、中庭からフワッと柚子の香りがした。
『何だろう…料理の匂いじゃ無いし…』
無一郎はそのまま土間には入らず、グルッと回って中庭の方に足を向けた。
「今日も綺麗だなぁ」
七瀬は縁側に座りながら、鼻歌を歌ってビードロ玉を太陽の光にかざした。
ビードロ玉を通って、屈折する光に目を細める。
光が薄青に反射しているビードロ玉の中を見て、七瀬は目を細めた。
『まるで無一郎さんの目の中を見ている様だ』
普段は無一郎の霞がかった目の色も、最近七瀬と目が合うと綺麗な虹彩は青いグラデーションで七瀬を見る。
『やだ…私ったら…』
こんな些細な光景でも無一郎を思い出す位、彼の事が好きな様だ。