第2章 Episode 00
「エミリーは気づいてないかもだけど、結構エルヴィン班長と似たところあるんだよねぇ....あ、今はもう分隊長か」
「ぜっったい嘘。例えばどんな所....」
「冷静に判断できる所とか、みんなについて行きたいって思わせる所とか。とにかく、貴方の指揮官としての素質は私が保証する!!そのネガティブな所は直さないとだけどね」
「う....」
エミリーは翌日に指揮官として初めての壁外調査を控え、いつもよりも更に不安を抱えていた。ただでさえ自分には立体機動の腕くらいしか誇れる所はなく、以前からスーザンの方が指揮官には相応しいと考えていたのに。何を血迷ったのかエルヴィンもスーザンも、自分を指揮官に推薦し班長に担ぎ上げている。
任されたからには仕事はきちんとこなす。しかし、エミリーは未だ自分が班を率いる人間としてやっていけるのか、確信が持てないでいた。
「...あ!なら直接彼に聞いてみようよ。絶対エミリーも元気になるから...!!」
「え...?彼って...ちょっ...!」
「エルヴィン分隊長ー!!お久しぶりでーす!!」
「...!!」
そう勢いよく大声でスーザンはエルヴィンの名前を呼ぶと、前方で懐かしい碧い瞳がこちらを捕える。人事異動があってからは直接会うことも少なく、エミリー達にとって彼とは久しぶりの対面だった。
「エルヴィン分隊長、お久しぶりです...」
「あぁ、数ヶ月ぶりだな。元気そうで何よりだ」
彼は分隊長になっても物腰柔らかく、優しく部下に接してくれる。思慮深く、彼の堅物な面に新兵の頃はビビりもしたが、今となっては懐かしくも思う。数ヶ月しか会っていなかったと言うのに、彼を一目捕らえた時の安心感や尊敬、憧れの気持ちは、きっと長年近くで彼を見過ぎていたせいもあるのだろう。久しぶりにその距離に戻ると、エミリーは粗相をしていないか少し胸がドギマギとする。
「班の様子はどうだ。明日の壁外調査は、上手くやれそうか」
「はい!新兵の子達も他の班員も、みんなエミリーのことを信頼してついて来てくれてます。もちろん私も、明日は全力でこの子を支えるつもりです!」
「そうか、頼もしいな」
「っ...」
上手く言葉を返せない。スーザンとエルヴィンのやり取りにたじたじになりながらも相槌を打ち、エミリーはその場が過ぎ去るのを待っていた。
