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露花の恋【進撃の巨人】

第2章 Episode 00



「エミリーは憲兵団でしょ?入団した時からずっと言ってたもんね」
「...うん。憲兵なら家族に内地での暮らしをさせられるし、給金もそれなりに貰えるらしいから...」
「すごいなぁ〜。本当に訓練兵団を首席で卒業しちゃうんだもん。誰も立体起動でエミリーに勝てる子はいなかったもんね!」
「そうかな...」

対してエミリーの入団理由はごくありふれた、不純なものだった。ウォールマリア南東の地域に生まれた彼女の家は、街から離れ、近くに巨大樹の森を擁する木こりの仕事を生業としていた。この世界では中央から離れた壁の外ほど、そこで生活する人間の価値は低くなる。木を切って売るだけの生活ではあまりにひもじく、冬を越せそうにない年は父と兄が開拓地へと出稼ぎに行く。エミリーはそんな生活から抜け出したかったのだ。

だから、エミリーはスーザンの前で自身のことを語るのが憚られた。ただ生活が豊かになることだけを考える、利己的な自分を知られるのが嫌だったから。夢を持たない自分が、恥ずかしかったから。

「エミリーはきっと出世して、王都で憲兵やってるよ!」
「...うん」
「私も壁外調査で自由な世界を見てくるよ。毎日は無理だけど、たまには手紙も書く。エミリーも華やかの王都の街の様子を手紙に書いてよ!」
「え...」

エミリーはその時、もやりと心の中が曇った。そうか、これが最後なんだ。彼女と過ごす日々も時間も、彼女の語る夢の景色に憧れることも。自分がその光景をこの目に映すことはこの先一生叶わない。つまらない嫉妬を親友に抱いてしまう程、自分もその場所へ行きたかったのだと彼女はその時初めて気がついた。

「...どうしたの?あ、寂しくなっちゃった?」

戯けたようにそう聞くスーザンの問いかけに、エミリーは珍しく言葉を詰まらせる。

「っ...うん、寂しい。スーザンと離れるのは、嫌...」
「エミリー...」

いつもと様子の違う親友の様子に、スーザンの方も少し戸惑う。だが彼女もまたエミリーの心の中がわかったような気がした。

「...憲兵になっても華やか世界になる訳じゃない。少し生活が楽になって、また詰まらない日々を送るだけ」
「....」
「本当は貴方と一緒に行きたい...!!貴方の隣で、自由な世界を見てみたいのっ...」

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