第5章 𝕆𝕕𝕠𝕟𝕥𝕠𝕘𝕝𝕠𝕤𝕤𝕦𝕞
地面に膝をつかせていた彼女はオレの言葉に顔を上げる
彼女の容姿を見て思わず小さく肩を揺らす
走ったせいか乱れた髪が顔にかかり、潤んだ瞳が縋るように向けられていた。幼く愛らしい顔立ちをしているが、どこか真っ直ぐとした芯のような美しさも感じられた
彼女はオレを見て、いかにも作ったような笑顔を向けた
………人形みてぇ
ヒーロー志望だと口にしたときは本気で驚いた
これは本人には言ってねぇが
こんなにもか弱そうで、小動物みたいな人が戦えんのかって思った(言ったら怒っちまうかもしんねぇが)
秋月 は自己肯定が極めて低かった
一緒に帰るときによく弱音を吐くことも珍しくもなく、その度に自分自身を打ちのめしていた
オレはもっと自信を持っていいと思ったが、本気で悩んでんなら余計なことを言わねぇほうがいいと思い黙ることにした
だけど自分以外のことはなんでも楽しそうに話す
弱音を溢すときとは正反対で、実際にいま目の当たりにしているみたいに声のトーンを明るくし相好を崩す
そんな彼女を見ているだけで温かった
懐かしくて安心できた
ここがオレの"居場所"だと思えるくらいに
「私が好き、って言ってるのは
轟くんの個性だけじゃないの
個性は付いてきて、そこにあっただけ
私は私を助けてくれた轟くんが好きなの」
いつからだったか
「轟くんの半冷半燃がなくちゃ轟くんじゃない
でもね、轟くんだから半冷半燃なの
どっちも揃って轟くんなんだ
それが私を助けてくれた轟くんなの」
__________________いつから
『……綺麗だ』
「…え?」
聞こえなかったのか覗き込むようにこちらを窺う 秋月
オレはポロッと溢れた言葉を隠したくて口元を手で覆う
いつから
オレを見つめる大きな瞳とそれを覆う長い睫
春風に揺られふわりと浮かぶ髪先
すぐに林檎のように赤く染まる頬
桃色のふっくらとした形の良い唇も
すべてが愛おしく綺麗だと感じるようになったのはいつからだっただろうか