第4章 𝕂𝕒𝕝𝕒𝕟𝕔𝕙𝕠𝕖 𝕦𝕟𝕚𝕗𝕝𝕠𝕣𝕒
雄英の門をくぐるまで私達の間に会話はなかった
轟くんは私の手を引き、一度もこちらを振り向かなかった
その雰囲気が少し怖くて彼の静かに燃え揺れる蟠りのようなものを感じた
雄英を出ても握られている手は繋がったままで轟くんに解く気がないのだと伝わった。私は恥ずかしかったけれど別のことに意識を集中させ誤魔化すことに努める
「悪かった、なんか無理矢理連れ出したみたいになって」
轟くんは目線をまっすぐ斜め下に定めて言う
私を見ないで言うその言葉に落ち着かない
『ううん、私こそ轟くんのこと…』
そこまで言って言葉が途切れ、出てこない
゛避けてた゛
私こそ轟くんのこと、ずっと避けてたのごめんね
轟くんと繋いでいないもう一方の手を固く握りしめる
不安にさせたことを謝らなきゃいけないのに
でも私は怖かった
もし轟くんに、避けていた理由を聞かれた時
自分がなんて答えるのか
その答えを見つけることが
とても"怖いこと"だと身に染みているから
「 秋月 がオレのことを避けてたのは知ってた」
轟くんが次に言う台詞を予想できる
理由を知りたいに決まってる
でも私にも分かんないの
今だってずっと
私は逃げたいくらい轟くんのことを意識してるんだから
轟くんは私をじっと見て、それからまた視線を逸らす
なんとなく直感だけど、別のことを言い出すような気がした
「 秋月 の側にいると、いつも懐かしい気分になる
誰かと似てる、よく思い出せねぇがきっとオレにとって大切な人に」
゛大切な人゛
胸がチクリと傷んだけれど、以前話した会話に私の個性に対して温かくて安心すると言ってくれたことを思い出す
そのことなの、かな
轟くんの居場所になれてると喜ぶ反面
轟くんが私を誰かと重ねてみているようで
私を見ていないんじゃないかと不安になる
私は不安を誤魔化したくて打ち消したくて
この前小耳に挟んだ噂を彼に尋ねてしまう
『そ、そう言えば轟くんのお父さんはエンデヴァーさんなんだね』
轟くんは足を止めて体を揺らす
私は愚かにも、そんな彼の様子に構わず話を続ける
『だから轟くんも強いんだね!よく話したりするの?』