第3章 𝔸𝕘𝕒𝕡𝕒𝕟𝕤𝕒𝕤𝕦
会話はよく聞こえないけどあまりいい雰囲気じゃないのは分かる。まさか…喧嘩かな…?
何かあったら止めに入ろうと足に力を入れた時だった
「だからなんだ!?
今日…オレはてめェに負けた!!!
そんだけだろが!そんだけ……」
喉から振り絞るようなかすれた怒鳴り声が鼓膜に響く
爆豪くんだ。怒ってる…けどそれは目の前の緑谷くんに対してじゃない
自分自身に
「氷の奴見てっ!
敵わねえんじゃって思っちまった…!!
クソ!!!ポニーテルの奴の言うことに納得しちまった…クソが!!!クッソ!!!なぁ!!てめェもだ…!デク!!」
同じ、なんて言うにはおこがましくて
だけど、今の彼の気持ちを私が抱えていた思いに似てる
ただ違うのは彼のほうがもっとずっと、"強い"
「こっからだ!!オレは…!!
こっから…!!いいか!?
オレはここで一番になってやる!!!」
『…っ!』
胸がキューとなって息苦しさに襲われる。呼吸が少し荒くなって、ようやく楽になったと思えば今度は目から涙が溢れてきた
一粒、また一粒
意味が分からない涙に困惑しながら聞き覚えのない声が頭に流れる
゛お前弱ェからオレがお前を守ってやる゛
自信に溢れた幼い男の子の声
ぼやぁと人影が頭に浮かぶ
小さくて、けど頼もしくて
私をどんなときも守ろとしてくれた男の子
私にとっては遠い昔の記憶
けれどそこにちゃんとある
あの子はだれ?なんで今になって思い出したの?
頭を抱えて必死に記憶を呼び起こそうとする
゛ごめんね…わたしのせいで…ケガさせて゛
゛こんなのケガの内に入らねぇーっつーの゛
゛ウソ…すごく痛そうだよ…゛
゛なんでお前が泣くんだよ、オレは痛くねぇんだからいいだろ゛
゛…助けてくれて…ありがとう……きくん゛
泣いてる私の頭を不器用に優しく撫でる彼
名前…なに…わかんないわかんない
゛今度はオレひとりでお前を守れるくらいに強くなってやる゛
思い出せそうでそれを拒む私の記憶
もどかしい気持ちはやがて涙へと変わり体から押し流されていく
『…あなたはだれ…?』