第3章 𝔸𝕘𝕒𝕡𝕒𝕟𝕤𝕒𝕤𝕦
______彼の背中になら届くような気がした
あの日届いたように、私の気持ちが
『_____________とどろきくんっ!!!』
雄英に続く斜面を駆け下りながら叫ぶ。もう少し近付いてから声を掛けるつもりだったのに姿を見つけるなり声が勝手に飛び出た
大量の桜の花弁が弧を描くように舞い上がり、その先には導くように彼がいた
私の声に反応して、前髪を風に揺らしながら振り返る
届いた、しっかりと、私の声が
轟くんが立ち止まってくれたので、私は速度を加速させ彼の前まで走る
身体が濡れ雑巾のようにクタクタで、せっかく彼を前にしても息を吐き出し吸うのに精一杯だった
「なんだアンタ」
素っ気ない問いかけに息切れで答えられなくて、膝に手を付き低姿勢のまま彼を見上げる
「…あぁ、あん時の」
私の顔を数秒見つめてから僅か目を見開き言う
あん時の、とは一昨日のことだろう
『一緒にっ…帰ろ!』
そう言って笑いかけると
轟くんは「なんでだ」と言いたげに私を凝視し、やがて分かったように一回頷く
「なるほどな、借りを返しに来たんだな」
『ほえ?借り?』
すっかり頭から抜けていた一昨日交わした会話が脳内再生される
そうだ…この借りは必ず返す、と私は言っていた
それに一緒に帰りたい理由を上手く説明出来そうになくて顎を引く
『そ、そうなの!轟くんの近くにいたら何か返せるかなって思って…』
しどろもどろになりながら答えるも轟くんは「そうか」とだけ言って駅の方向へ足を動かす。私もすかさずその少し後ろから付いていく
決して気まずい訳じゃないのだけど
一言も会話しないなんて…一緒に帰ってるって言えるのかな
『…と、轟くんの個性は氷なの??』
ほんの少し轟くんの肩が揺れる
顔を前に向けたまま彼は「……あぁ」とだけ言った
『体力テストすごかったもんね!
私自分のことにいっぱいっぱいで
すぐに助けてくれた人だって気付けなかったよ』
やっぱり個性のことになると悲観的な気持ちが湧き出てくる
自分への複雑な気持ちを噛み殺し、飲み込む
「オレもだ、アンタのこと見掛けたがすぐに分かんなかった」