第1章 𝔸𝕗𝕣𝕚𝕔𝕒𝕟 𝕔𝕠𝕣𝕟 𝕝𝕚𝕝𝕪
東の方から福岡に来て二年ちょっと
小学四年生だった私は酷くつまらない人間だったと思う。
好きなものもこれといって嫌いなものもなくて
取り柄も特技も、誰かに誇れるようなことなど一つもない
空っぽで、常に自分の存在意義を誰かに求めてた
東京に住んでいた頃、幾度と誘拐されかけたことがあった。
小学校に上がるに連れ今まで母親と下校していた帰り道が一人へと変わったのが原因で
車の中に強引に連れ込まれそうになったことは今でも時々思い出すし、なんなら私を守ると言って危険を顧みず助けてくれた友達もいた
何度も何度も私は彼らの標的にされたのだ
それを見兼ねた母が地元の福岡に私を連れ引っ越した
親に迷惑をかけてしまった、というのもあるけれど無力でされるがままな自分に嫌気が差していた
最後は結局ヒーローが助けに来てくれた
私が太刀打ちできなかった相手を一瞬でやっつけてしまった
…私はずっとこのままなんだろうか
自分の個性がもっと強くてカッコよければ
何にも出来ない自分が一番嫌い
環境が変わっても劣等感は残ったまま
いきなりランドセルが重くなった気がして
目の辺りに熱いものが広がってるのが分かる
…こんなとこで泣くなんてやだ
世間はクリスマスイブですっかり浮かれているが私の心は無邪気に楽しむ余裕はなかった。暫く止めていた足をようやく動かす、が次の瞬間再びその場で硬直してしまう
だってものすごく熱かったから
先程まで映してた灰色の視界が突如、真っ赤な燃えるような赤色に変わったのだ。炎は揺れ、私を呑み込む勢いだった
実際炎は突っ立ち、空の薄暗い色を明るく染め上げていく
どうして、こんなに立ち昇っているのか
理由はすぐ分かって枯れて枝を伸ばすだけだった街路樹に燃え移ったのだと理解した
じゃあ炎はどこから来たのだろうか?
さすがにそこまで考えられるほど呑気な神経はしていなかった
目の前の炎の波から逃げたくてひたすら来た道を戻るが既に囲まれていた
青ざめていく自分
今度こそ本当に涙が頬を伝っていく
______だめだやっぱり私は弱い
もし私の個性が水系とかだったらこの炎を消せていただろうに
なんでなんで私の個性はこんなに弱いの
どうして私ばかりこんな目に?
どうして私は…
「…けて…ママ…ぁ」