第2章 ℍ𝕒𝕣𝕕𝕖𝕟𝕓𝕖𝕣𝕘𝕚𝕒
゛じゃあね、 ひかりちゃん゛
あの時私は『じゃあね』って返せなかった
たったそれだけ、たったそれだけなのに…
小さなモヤが胸の奥でずっと渦巻いてモヤモヤしてる
彼とはもう"また"もないかもしれないのに
そう思うと体がゾクッと震え、気付いたら2、3歩踏み出していた。お腹に力を込め、風に負けまいと声を張り上げる。
『っ向いてなくてもいい…!
さ、さっきは弱気な事言ったけど…だからこそ雄英で頑張りに来たの!!』
足は止まってくれないけどその背中に届いてるような気がした
やりきれない気持ちを全部吐き出したい
どんな私になりたいのか
『私はずっと前からこんな自分変えたいって思ってた…!ヒーローになることでいまの自分でいいって…肯定したい!
アナタが…助けてほしいって思えるような…』
息が詰まって咳き込む。大きく酸素を吸い込み喉に流れてくる冷たい空気がひんやりと感じる
滲んでてくる涙に再び情けなさを覚える
『今度は私がアナタを助けるから!!!!』
体から力が抜けたようで前にがっくりと肩が下がる
言えた…届いたかわからない…けど
自分の強い思いを啓悟くん以外の人に向けてぶつけたのは初めてだった
こんな自分も少しは成長出来たみたいで表情が緩む
「あんな、デケぇ声も出るんだな」
『…ほえ』
間抜けな声が溢れ、顔を上げる
目の前に立っている青年に思わず動きが止まる
さっきまで背中が見えるか見えないかの距離だったのに
私の目に光る雫を見て彼が可笑しそうに首を傾げる
「そこ、行きてぇのか」
話を逸らされ、彼が私の手元を指差す
私の手には新しい住所がかかれたメモがある
相変わらず文字数のない台詞に頷く
「最寄りまでなら案内出来るぞ」
『え…えっと』
急展開に目が回りそうになる
それにそう何度も助けてもらうのは気が引けてしまう
『有り難いけど何度も借りをつくっちゃうのは申し訳ないって言うか…』
「借りの一つや二つ変わんねぇだろ」
さらっと言いのけるところから本人は別に気にしていないことが分かり、素直に彼の親切に甘えることにした
私はついていく形で少し後ろを歩く
駅に着く間は全くと言っていいほどお互い無言だった